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天秤の詩

9月20日付のガイアさんのブログに『天秤の詩』の一文が載っていた。

イエローハットの創業者、鍵山秀三郎氏が制作に大きく関わった映画だ。イエローハットの前身のローヤルという会社名で3部作の映画に出資している。企画も関わっている。

ガイアさんには申し訳ないが、簡潔にまとめられているので、その記事を掲載させて頂きます。


天秤の詩(うた)
    
かって近江八幡では商家の長男が小学校を卒業して商業学校へ進学する前に天秤に鍋ぶたを担がせて、商いの原始体験をさせる習慣があった。

小学校をでたばかりの少年は父親に呼ばれる。

そして風呂敷に入った鍋蓋を売ってくるように言い渡される。

ところが鍋蓋だけなんて簡単に売れるはずも無い。少年は途方にくれる。

行商に出たばかりで鍋蓋が全然売れない主人公の少年が、家に帰って来た時に、昼間食べた弁当の不満を言った。弁当には梅干の入ったおにぎりだけだったのだ。

それを聞いていた祖母がたしなめる。

「あんたも商人の子やったら、しまつということを知らんといかん。

鍋蓋が売れてへんのに、何で弁当のおかずに不満を言うんや。

商売ちゅうもんは売れてこそ成り立つもんで、売れてもへんのに何を言うとるんや。

あんたも立派な商人になるんやったら、しまつということを知らんといかん。

売れてもしてへんのに贅沢な弁当を食べていたら、商売というものは成り立ちません。

ちゃんときばりなはれ!」

そして母はもっと厳しい。

朝、家に着くと母が弁当を作って玄関で待っていた。

「商人になる覚悟は出来ているのか?」と言う問いに「はい!」と答える少年。

「それなら商いに行きなさい!」

「夜寝てないのに・・・明日からではあかんか?」

「明日の覚悟は覚悟やない!」

母の厳しい言葉に少年は売れるまで帰らない覚悟をする。

少年はくたびれて泣く泣く井戸端で休むと、そこに放置された鍋蓋を洗う。

するとそれをみていたおばさんが「どうしたの?」とやさしく聞いてくれる。

優しい言葉をかけられるとそれまで我慢していた涙がどっとあふれてくるものだ。

少年はこれまでのことをしゃくりあげるように語る。

聞くおばさんの眼にも涙。

「わかった、おばちゃんがひとつ買ってあげる。」

初めておばちゃんは少年の鍋蓋を必要もないのに買ってくれた。そして隣近所のおばさんたちに声をかけて次々と鍋蓋を買ってもらうのだった。

自宅に帰ってきた少年に父親は言う。

「商いはな、天秤棒と一緒や、どっちが重もとうても、うまくかつがれへん、売り手と買い手の心がひとつになったときにはじめて商売がなりたつんや。」

少年の心の奥底に商売の奥義がすとんと落ちたのだった。


第1部が立志編であり、第2部は近江商業高校時代の卒業研修として、朝鮮半島へ商いの自習へ行く、第3部として戦後のどさくさの中で老舗の商いをどう続けてゆくかを主人公が苦悩しながら多くの御縁によって商いを続けてゆく決意をする。

私は、ビデオテープで3巻観させて頂いたが、どのシリーズも示唆に富んでおり、落涙してしまわずにはおれない内容となっている。

近江商人には、飢饉普請という思想がある。世の中が不景気の時には蓄積してある富を世の中のために使うという思想だ。

富者がお金の使い方を間違わない限り、世の中は悪くならない。むしろ、富者がいなければ困ることもあり得る。大金を扱い慣れた人にしか、大金の使い方は解らないからだ。

渡部昇一先生曰く、日本の大蔵官僚はエリートだが、金持ちでないために、お金の使い方が解らないので金融政策はことごとく失敗していると述べている。歴代大蔵大臣も同じか。
by 8jyou | 2009-09-20 16:02