2011年 09月 08日
「九十九日をもって半ばとせよ」この言葉を初めて聞いたのは、中村文昭氏の講演会だった。
中村氏は高校卒業後、目的もなく上京した。ある飲み屋で出会ったTさんに惚れ込んで師匠と弟子の関係となる。
師匠と同じ所に寝泊まりして移動販売の商売をやりながら、人生の何たるかを師匠にたたき込まれてゆく。
生活全般は師匠が面倒みてくれるが、最低限度の小遣いしか弟子にはもらえない。朝早くから働いて夜遅く宿舎に帰り、夕食後に師匠の講義を夜遅くまで、そして翌日も朝早く、という生活。
1年の内の休みは無いに等しい。数人の若者と師匠の暮らしが続いていたが、中村氏はその暮らしに耐えかねて脱走する。
親の反対を押し切って東京へ出た彼だが、帰るところは母親の懐しかない。
恐る恐る実家の玄関を開けようとしたとき、中から母親が誰かと長電話をしている声が聞こえてくる。
その電話は深夜遅くまで続いた。中に入りきらずにいた中村氏も電話が終わって中にはいると、母親と話をしていたのは師匠だったことを告げられる。
母親にとっては初対面の会話だったが、その師匠の言葉に心を動かされ、息子に一人前になるまで家に帰ってくるなと告げる。
電話の先から師匠は何と言ったか。
「今、あなたの息子さんは大きな夢に向かって修行をしている。1人前になるのにあとちょっとと言うところまで来ているが、逃げ出して行った。おそらく、あなたの元へ帰るだろう。しかし、お母さん、あなたが本当の愛情を示すには、優しく迎えるのではなく、息子が一人前になるまでしっかりと勉強してこいというのが本当の愛情だと思う。九十九日をもって半ばとせよという教えがあります。あと一日というところで人は気がゆるみ躓いてしまいます。一人前になるかどうかはあと一日を修行の半ばと思えるかどうかです。どうか息子さんにそのことを伝えてください。」
初めての電話なのに、こんなにも真剣に語ってくれるT氏をお母さんは信頼して息子に辛く当たります。それが本当の愛情だと信じて。
そして中村氏は師匠の元に戻り修行を続けたあとに、立派に独り立ちします。
今ではその体験を元に全国の若者に講演をして廻っています。
私は、6年前に初めて中村氏の講演を拝聴して大きく人生の舵を切った一人です。
良い言葉、良い人物に出会うことは人生を豊かにしてくれます。